ろじうらのあかり

好きだからこそやるんじゃない やってるからこそ好きなんだ

感想:Thunderbolt Fantasy 生死一劍


 いやなんかもうめちゃくちゃ面白くて「俺たちのサンファンが帰ってきたーッ!!!」という喜びに満ち溢れております。75分と言わず3時間くらいやってて欲しかった。いつまでのあの世界に浸っていたかったなーと思うぐらいには楽しい時間でした。

 所でスタッフロールのラストにめちゃくちゃほっこりしましたので、皆も劇場で見てスタッフロールでほっこりしたらいいと思う。

 以下はネタバレと、「虚淵玄は世相を反映するのが上手いな!!」という話。

 


 ・殺無生がまさかあそこまでかわいそうな目に遭っているとは流石に予想の範疇外だった 小説発売当時に買わないまま生死一劍上映になったので、「じゃあここまで来たら原作を読まずに初見の驚きを味わおう」と思ってそのまま読まずに見て正解だったかもしれない。凛雪鴉とは鬼でも悪魔でも下種でも外道でもなく、鬼より悪魔より下種より外道よりもひどい男である。凛雪鴉マジ凛雪鴉。これ以外に奴を言い表す言葉が思い浮かばぬ。(ある意味「人間の一面としての極地」みたいな所はあるんですけど、「主語が広すぎてしっくりこねえ」という感じがする……)
 ・殺無生編は血糊大盤振る舞いでアクションもすごかったですけど、やっぱ何より殺無生の演技がよかったなあ、思い返すと東離劍遊紀の頃よりまだ声が柔らかいんですよね。凛の事も掠風竊塵と認識していたのか「掠」と読んでいましたし。親しげな空気が流れていて、特に「お互いに今の生業をやめる気はあるのか」という話になった時などは凛の演技も含めてとてもよい味わいを出していましたし、「剣鬼とは違う生き方ができるかもしれない」「俺は今より変わるのだ」と決意を抱く所なんか本当にまっすぐで、本当に不憫がすぎる。完全に凛を信用していたから、周りを囲まれている時もなかなか要領を得られていない所なんかもう本当に凛雪鴉の人でなしが過ぎるとしか言いようがなくないこれ?
 ・「こうあれかし」と父に定められて、そのように生きて、けれどそこから抜け出そうとするも、時既に遅しっていうか、まあ居合わせた相手が本当に悪かった。マジで。あんな手法考えつく方がおかしいし、それをきちんと土台固めた上でガチで実行するのは絶対に人のやり方ではない、あいつは凛雪鴉だから……。正攻法で勝ち上がっていたらまだ認めて貰えたかもしれんのになあ……。
 ・予告の冒頭でてっきり凛にボコられてああなったかと思いきや、ああいう形だったのはちと驚き。というか「身も心もボロボロの今お前の剣技は冴え渡っている」(という感じの台詞)とか、デジャヴ感じるなと思ったら鬼哭街でちょっと笑ってしまいました。

 ・殤不患編は……もうなんか言うことある?っていうか……殤さんの安心感頼もしさが群を抜いていてひたすら楽しかったし、獵魅ちゃんがとにかく可憐で素晴らしかったので(宗主様にはああいう調子だったのかなとか……)ありがとうございます、生足もありがとうございます。布袋劇で生足やお尻はチャレンジだとパンフレットにも書いてありましたが、日台相互にチャレンジする事が多い現場のようで、いい事だなぁって思う。あと何気に机の上で食い散らかされた食べ物の描写がすごく好きです。あっ、冒頭のアイツに関してはもはや言うことはあるまい。帽子被っただけであれだけ胡散臭くなるのすっげえな、いや元々胡散臭くはあったけども。

 ・で、「虚淵玄は世相の反映が上手いな」という話。
 今回のお話は二編とも「違う自分になろうとする」という点で共通していましたね。父に貼られたレッテル、生まれながらにして捨てられたという事実、「殺無生」という名前……そこから抜け出せるかもしれないと手を伸ばした男と、武門に属しながら特筆すべき武芸を持てず、そこから逃げて名前のないまま、ただ流れる中で耳にした英雄の名と姿を借りて仮面を被った男。どちらにも「現状から抜け出したい」という思いがあって、特に偽不患のエピソードはインターネット社会でもわりと見かける話だし、わりとよく聞くフラストレーションかなって思います。と同時に、捲殘雲の「東離で名を轟かせていないのは、まだ生まれていないのと同じ」という言葉も思い出しますね。
 「楽園追放」における仮想空間ディーヴァも、相互監視的なインターネット社会を反映したそうですし、この辺は現代コンテンツに多く関わる虚淵氏ならではなのかな。
 そも地上波で最後まで引っ張り続けた「殤不患の剣」についても、メタ的に見れば「人間が命(=気功)を吹き込んで初めて稼働する木のオブジェ」という事を踏まえると完全に「布袋劇」そのものなのでね……それをああまでガッツリとリスペクトを込めてお話の中に組み込める柔軟さ、すごいなと改めて思う。よっぽど衝撃だったんでしょうねえ。

 西の果てからやって来た、とんでもないものの活躍が今後とも楽しみです。2期新キャライエーイ!!!西川兄貴イエーイ!!琴かと思ったらガチめにギターでびっくりだ!!