ろじうらのあかり

好きだからこそやるんじゃない やってるからこそ好きなんだ

感想:映画「銀河鉄道の夜」(1985年版)

 

 塚口サンサン劇場にて、細野晴臣50周年ドキュメンタリー「NO SMOKING」が公開されるのに合わせて、細野氏が音楽を担当して1985年に劇場公開された「銀河鉄道の夜」も上映されるという事で、おっしゃこれは、という事で行ってきました。以下感想です。

 

 

 ゆったりしたテンポの作品で、体調が微妙なこともあって序盤は何度かあくびが出たけども、サギを採る人のあたりからすっかり引き込まれてしまいました。幻想的な世界だった。背景美術がすごく凝っていて、車窓越しに眺める景色や駅の景色がすごくよかったです。

 そもそもこのアニメ、どういう経緯でどの層向けに作られたのか一切把握していないのだけど、だいぶわかりやすく作られていたなぁという印象。ジョバンニの「父は長期漁に出てなかなか帰らず、母は病気がちで学校が終わった後も仕事場に行って日銭を稼がねばならない」という現状、おそらく小学5年生ぐらいの子供が背負っていいものじゃなくない?(2020年の率直な感想)

 先生に当てられてとっさに答えられず、カムパネルラには哀れまれ、学友には冷やかされ、職場の活版所でもちょっかいをかけられ、母は「今日は涼しかったので大分調子がいい」と言うもののベッドから起き上がれず、牛乳は届かず、星祭りを見に行こうとした先ですれ違った学友に声をかけたらまた冷やかされる。(ここはさすがに「君たち同じことしか言えんのか?」と思ったが同じことで話が盛り上がり続けるのが子供だから・・・)そりゃ草むらで膝を抱えもするわな。カムパネルラも交友関係が広い、というか博愛的な側面が強そうな子なので、ジョバンニだけの味方をするわけにも行かなそうですし、切ねえ。
 それにしても子供向け作品だとして、すごくゆったりしているし、音や画面の作り方も暗めで、これは子供が退屈がったり怖がったりしなかったんですか……?

 序盤は銀河鉄道に乗るカタルシスの為に溜めてるのかな?と思ったが、別にそんなことは全然なかった。そう、乗った直後にカムパネルラと乗り合わせていることがわかって「ぼく、君と二人いっしょになれてうれしいんだ」と話すジョバンニ、お口がはっきり開いていてHOKKORIしたな……足もぶらぶらさせちゃってな……。

 ジョバンニとカムパネルラを始め、登場人物が全員猫なので「犬ホームズみたいにそういう世界なんだな」と思っていたら姉弟と家庭教師3人がおもいっきり人間の姿で出てきてびびり倒したよな、「異物」そのものじゃん・・・・・・。
 実際、ジョバンニ(読者寄りの視点)と、カムパネルラをはじめとして「銀河鉄道の乗客」の認識がズレていることを決定的にするためのシーンでありキラクターなのであの処理は正しいといえる。猫世界の中に入ってきた人間の中の最年長が世間話でもするみたいに「氷山にぶつかって船が沈みましてね」って言ってくるの、素直に怖えな。まあ実際列車の中では世間話みたいなもんだが。(と思ったらwikiでまったく別の理由が語られていた)
 リンゴを分けるシーンで「ピングドラムじゃん!!」となってしまった、順番が逆でござるよ。

 姉と言えば、りんごに頬ずりするシーンって原作にあったかな……(うろ覚え)ピングドラムが混入してアレだけど「分けられたリンゴ=愛」とするのであれば、カムパネルラが「自分が分けた愛」を「いい香り」と肯定して嬉しそうに頬ずりする姉を見ているの、カムパネルラの視点に立つと「自分が分けた愛が受け入れられたら嬉しかったり安心するよね」という理解があるんだけど、ジョバンニから見た場合の「ん?」という違和感の出し方が「ウワ……」という反応になるぐらい丁寧なんだよな、原作でもあくまで居心地が悪くなってるだけで、それをはっきりと表に出していないと思うので。

 それにしてもジョバンニ(読者)には黒い大穴しか見えていない状態でカムパネルラが「石炭袋=黒い大穴、虚無、ブラックホール」が「本当の天上」って言っちゃうの、ケンジ・ミヤザワですねって感じだよ。
 最後の最後まで「この列車は死んだ人間が乗るところ」だとはっきり言えずに、「ずっと二人でいよう」と言うジョバンニに目を潤ませるカムパネルラ、ひぃん……さぞかし心中は複雑でお辛かったでしょう……。


 最後の最後、現実でカムパネルラの死(少なくとも父はそう把握していた)を知ったジョバンニに「ぼくの体なんか百ぺん焼かれてもかまわない」を持ってきたの、個人的にはよい改編だなと思いました。カムパネルラ、ザネリ、カムパネルラの父、病床の母、カムパネルラの父に便りは出せどもまだ帰らない父、銀河鉄道の乗客達、そしてカムパネルラを失った自分自身。それらの「ほんとうのさいわい」の為ならば、としたのがね、よかったね。

 

 スタッフロール、声優さんのお名前を見てしんみりしてしまった、35年前の作品なんだものな……。
 
 終わってからもじんわりしたものが胸中を漂って、座席から立てずにいたのですが、なんか、個人的には「人狼」と同じぐらい、「冬の寂しい、心のつながりなんて信じられないような日に毛布にくるまって見る作品」みたいな印象になりました。劇中は夏が終わって秋にさしかかる頃なんですけどね。