ろじうらのあかり

好きだからこそやるんじゃない やってるからこそ好きなんだ

感想:「ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん」(字幕・吹き替え版)

 

 「ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん」を塚口サンサン劇場にて見てきたので感想です。

 なんか気が付いたら字幕と吹き替え両方見てましたね、いいアニメでした。

 

 

 全体的にめっっっっちゃよかったですね……。
 線も色も少ないのに、サーシャのひたむきさや船員たちの個性、厳しすぎる北極圏の自然などが真に迫って来るようでした。


 絵作りで一目見て「ギャッ!塚口でやるでしょこんなん絶対上映するでしょ!塚口で見る!!!」という決意を固めていたら塚口で上映されたので塚口で見たタイプの映画ですが、塚口で見てよかったな、音がいいので!!!!


 船のきしみ、波の音、強い風、命を奪うブリザード、本能的な危機感をかき立てる音を立てて割れる流氷、キャスト陣の息づかいなどがきちんと立っていて、「ああ~~~~塚口で見て大正解なんじゃあ~~~」としか思えぬ。私はその映画を初めて見た映画館を「親」だと思いがちなので、塚口で見て本当によかったなあ。


 それにしてもあれほど徹底して人物も背景も同じアートワークを貫いた作品、本当に貴重っすね……パンフレットには「ディテールの細かさよりも人物の感情に手間を裂きたい」という話をしていて、無限大のそれな感があった。まあどっちがいい悪いの話ではないが、「祖父の名誉」という人間ならではの不合理な感情のために北極圏へ祖父の船を探しに行く話なので、感情が最も強く出る「表情」に手間を割きたがるのは選択として当然だよなと。
 それにしてもやはり犬は人の友であり導き手、フィクション存在の犬は最高です、何せ犬だからね。(そう……)


 しかしおじいさまがああいう凍り付き方で見つかるの、素で息を呑んでしまったし、辿り着けなかったのか……と思っていたら、まあ後でただでは転ばないおじいさまなのが発覚するわけですが。流氷が割れて此岸と彼岸が分かれるの、とても象徴的でよろしかったですね。今日2本ともそういう映画(同日に「銀河鉄道の夜」を見た)を見たことになるのか……。


 パンフ曰くおじいさまは「徹底主義者」だったそうなので、ああー極限状態でそれは、そりゃ割れるわなぁ……という気持ちもまあある。
 北極点へ立てるためのポールを荷物ごと捨てたおじいさま、オイィ!?って思ってたらサーシャが子供の頃に立てた旗を立てるし、航海日誌もサーシャ宛にするし、どんだけサーシャの事好きなんだよと思うけど、船員たちと分かれて孤立して、旅立つ前も自分の物言いが原因とはいえど敵もいるし、航海にはお金や物資が必要だしで、そういう打算やあれこれを全部抜いて、ただただ自分を尊敬してくれていたのが孫のサーシャなんだよなぁと思うと無理からぬ話ですわって思う。

 

 ルンドとラルソンの確執から和解への流れもよかったなあと思います。サーシャの大事な耳飾りをギャンブルに使ってしまったラルソン、ルンドに認められない苛立ちをギャンブルで晴らしていた所もあったんだろうなと思う。

 

 ルンドが大怪我を負って精神的な支えがグラつき、少ない食料と凍死寸前の寒さで追い詰められ(コックの人、目がどんどん死んでいくのがつらかった……)餓鬼のようになるのも人間だし、状況へのいらだちをサーシャに「元はといえば君のせいじゃないか」とぶつけるのも人間だし、その言葉、というかいつでも味方をしてくれていた、つらい状況でもサーシャを責めることをしなかった同年代の男の子にまで言われてしまいショックを受けたサーシャを、全員で探しに行くのもまた人間なんだよなぁ……としみじみしてしまいますね。
 

 ところでオルガおばちゃんの話していいですか?俺はああいうフィクション上の肝っ玉おばちゃんに弱いんだよなぁ!!!!!!港の食堂でお仕事してるから、というのもあるだろうけど、多分おじいさまが出航した時とか評判を聞いたりしたろうし出航前の乗組員があの食堂でご飯食べてただろうしな。にしてもサーシャのお仕事量、かなりのものでしたが、サーシャの前はあれを一人でやっていたのか、なんておばちゃんだ……ますます好きになるでしょ!
 それにしても最初はお盆すらちゃんと持てなかったサーシャが1ヶ月でオルガを逆に朝5時に起こすようになるの、若さを見ました。私なら1日目の筋肉痛で2日は動けないのではないか????
 吹き替え版もあるから来週見に行こう~と思っていたんだけど、もう明日にでも見に行きたいので困る。

 

 で、吹き替え版を見たんだけど、カッチがサーシャに「君のせいじゃないか」と言うシーン、吹き替えだと小さな声で「おまえのせいだろ」という台詞になってて字幕版よりキツさが増しておった…………めちゃくそキツい……。
 字幕版はサーシャの声がハスキー系だったので最初吹き替え版の声に「高いな!?いやでも14歳なんだよな……」と思いましたが、すぐ気にならなくなりました。みんなイメージ通りだったな。

 

 凍死しかけた直後にシロクマに襲われて気が抜けたサーシャを抱きかかえる副船長をカッチが納得できない顔で見ているの、あら~~~って感じです。
 カッチといえば、サーシャと二人でジャガイモの皮を剥いて、剥いたジャガイモを一つの水桶に入れるシーン、フランスの作品って感じっすよ……あとサーシャのコートに、サーシャを彫ったジャガイモを忍ばせるのとかね。フランス映画はすぐああいう事する……(フランス映画に対する漠然としたイメージでものを言っています)。

 

 あと見直して「良い……」となったのが雪の表現ですね。特に父の叱責で打ちのめされたサーシャがテラスに出たシーン、すごく好きです。
 コンパスがただただ(コンパスの機能として)北を指しているのを、「北へゆけ」という啓示のように演出するシーン、ありきたりではあるんだけど、すごく好きなんだよなぁ、スッとサーシャの表情が定まっていて……。

 

 あと、いよいよ氷山の中に入っていくぞ、というシーン、完全に「呑み込まれていく」という表現で、進まねばならないのだけど、そこへ進むのを躊躇ってしまう怖さがあってよかったです。

 

 帰還からEDに入る曲、塚口のシアター4による低音効果なのかドラムが心臓の音のように響いて、音が体に染み入るような効果になっていて、EDの展開も併せてじんわり来るなぁ……「プロメア」リオ編ののASHESアレンジ版が顕著だったんだけど、スピーカーによってそういう効果が出るのマジでどういう事なんだろうな、どういう調整をしたらそうなるの?そしていつそういう調整をしているの?いや閉館後なのは理解してるけども。音響担当の方はちゃんと寝ていらっしゃるの??上映中に万が一のことがあってもいかんし、開館中もいないといかんでしょうに……。


 EDロールで父を前にしてこわばっていたサーシャの顔が、父に抱きしめられてしばらくきょとんとして、父を目一杯抱きしめるカットには目を細めてしまいました。サーシャはおじいさまの遺体を目の当たりにしても、帰還の中でも泣くことはなかったけれど、自分もダバイ号を探す旅でおじいさまと同じルート、同じ極限を味わった当事者としての共感はひとしおだったろうなぁと思います。父に抱きしめられて、ようやく泣けたんじゃないかな……。


 旅の終わりでもあり、「次は一緒に冒険に出よう」というおじいさまとの約束の終わりでもある。「別れるために会いに行く」というお話でしたね。